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『はじめまして』五味太郎

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あらすじ

「はじめまして!」
「なに言ってるんですか。いつも会ってるくせに」


インプレッション

親しき仲にも「はじめまして」

この『はじめまして』は、いつも当ブログで紹介している絵本とは、一見したところ、トーンがすこし違います。つまり、「いかにも子ども向けに作られた絵本」のような絵本で、しかも対象年齢まで低そうです。いえ、実際その内容は、「たしかに幼児がキャッキャ喜びそう!」といった具合です。しかしそうでありながら、見るからに絵本絵本した、雑に作られた子ども向け絵本とは、明らかに一線を画す内容です。

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「いや、どこが??」と、本書を手にしたことがある人は、もしかすると思うかもしれません。何しろキャラクターは、「何これ?」といったクリーチャー風ですし、会話の話題も行き当たりばったりで、およそ取りとめがありません。また、ふざけ半分に筆を走らせたような、落書きめいたあれこれが、どのページを開いても、グルリと囲うように置かれています。まじめに読む気が失せるような仕掛けが、ほぼ全編にわたって散りばめられているわけです(一方で子どもたちは喜びそうです)。

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なるほど、表面上はユルいです。否定できません。それでいて、徹頭徹尾カッチリつくられています。よくよく読み込めば見えてきます。すでに気心が知れた、仲良しの相手に対して、「はじめまして」な距離感(よそよそしさとは別の)が、いつもどこかで意識されています。相手を思いやり、真剣にリスペクトして、フレッシュな関係性をキープできるように。ホント、実に高度なコミュニケーションのあり方が示されています。冗談まみれの作りでありつつ冗談抜きで。そのスタンスは、最初から最後まで、まったくブレていません。

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そこのところが読めていれば、この絵本の印象はガラリと変わるでしょう。得体の知れないクリーチャーにも納得です。いつだって先入観なしに対峙すれば、そう描くことが、むしろ正確なものとなるでしょう。他愛のない会話にも、あまりの他愛のなさに、ほっこりした空気感が伝わります(本当に仲良しの相手とは、そういった言葉を交わすものですよね)。ページを囲む落書きめいたものも、すべてコミュニケーションを楽しむための、小道具的な背景と考えられます。何でもネタにして楽しんでしまおう、といった具合の。

そう、この『はじめまして』が、いかにもな絵本風に見えてしまうのは、ある意味で絵本的な表現(絵本でなければ不可能な表現)を突き詰めているからなんです。まっさらな心で読めば、すばらしい一冊であることに気づくでしょう。

作品情報

『はじめまして』
作者:五味太郎
出版:ブロンズ新社
初版:2010年

はじめまして

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