読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『みつけてん』ジョン・クラッセン

海外の絵本 2016年の絵本 カナダ コミュニケーション

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233319j:plain

あらすじ

素敵な帽子がひとつ、二匹のカメの前に落ちていました。さて、この帽子の行方は……。


インプレッション

二匹の間で、カクがちがう

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233341j:plain

二匹のカメの前に、魅力的な帽子がひとつ落ちていました。この帽子を巡って、争いの予感、もしくは抜け駆けの気配が、物語には立ち込めます。しかし最終的に争いは起こらず、抜け駆けもなく、ピースフルな結末へと落ち着きます。なお、二匹のカメに名前は付いておらず、甲羅の模様、あるいは立ち位置で見分けます。ちなみに帽子に執着しているのは、四角形の模様がついた左側のカメで、それほど帽子にこだわっていないのは、六角形模様の右側にいるカメです。

六角形のカメは、あまり帽子にとらわれていない(ように見える)ので、すぐ思いつく円満な解決方法としては、四角形のカメに帽子を譲ることです。ただしストーリー上、そのような展開にはなりません。またその解決方法は、実はそれほど優れたものでもありません。二匹のカメは友達のように描かれているので、仮に一方が他方にモノを譲ってしまえば、他意がなかったとしても、貸し借りの関係ができてしまうからです(そのような関係性のある友達付き合いは、あまり気持ちのいいものではないでしょう)。

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233427j:plain

では、どのように問題を解決したのかというと(詳細は作品に任せるとして)、六角形のカメが、寝言のように語ってみせたストーリーによって、です。事実このカメは、なかば眠っているので、二重の意味で寝言のようです。こずるい性格の持ち主であれば、あるいは、あまり賢くなければ、そんな話には耳を傾けず、さっさと帽子を手に入れることでしょう。制止しようとしているのは、夢見心地の寝言、ないしロマンティックな綺麗事ですし、目も届いていないので、やろうと思えば簡単に出し抜けます。けれども四角形のカメは、帽子を自分のものにしようとしませんでした。

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233418j:plain

「えーっ、どうして!?」と、絵本を読んでいて疑問に感じる人もあるでしょうが、いやいや、四角形のカメが思いとどまったのは正解です。建て前やら、ロマンやらも関係なく、現実に即して大正解です。実際、もし六角形のカメが語ってみせたようなことを聞かされたら、抜け駆けなんてやらないでしょう。なぜって、スジがいい。それも、ただロジカルなだけでなく、話に味がある。もっと言うなら、六角形のカメには何やら大物感があって、ヘタなことをやったところで絶対に勝てない──。そこまで感じ取れないにせよ、「コイツといると何か面白そう!」と思わせます。それをたかだか帽子ひとつで失うことになるとすれば、そんな愚かしい話はありません。まともな判断力があれば、何が正しい決断かは明らかです。

ふつうに読めば、「いい話」とか、「やっぱり友情は大切」とか、そういった感想になるでしょうが、その読み方だけだと、勿体ない気がします。六角形のカメが、寝ても覚めても同じくクールなたたずまいにあり、四角形のカメとは角が違う……、おっと、格が違う部分に注目すると、なかなかヤバい話だからです。

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233402j:plain

ところで。この絵本は、長谷川義史によって関西弁で訳されていて、そこに違和感がある人もいるかもしれませんが、きちんと読めば、関西弁が持つスタイリッシュな側面を存分に活かした、いい訳だと感じることでしょう(異訳や意訳の議論はさておき)。また、シュールなイラストの喜劇的な部分も、関西弁によってうまくフォローされています。

作品情報

『みつけてん』(We Found a Hat)
作者:ジョン・クラッセン(Jon Klassen)
翻訳:長谷川義史
出版:クレヨンハウス
初版:2016年(日本語版)

みつけてん

みつけてん

We Found a Hat

We Found a Hat

ジョン・クラッセンについて

f:id:ookami_to_taiyou:20170306233734j:plain

ジョン・クラッセン(Jon Klassen。1981~)は、カナダのオンタリオ州ナイアガラフォール出身のイラストレーター、絵本作家です。帽子をテーマにした絵本をこれまで三冊出版しています(本作はその「帽子」シリーズの完結編になりますが、前の二冊を読んでいなくても問題ありません)。一作目の『どこいったん(I Want My Hat Back)』でドクター・スース賞オナーを、二作目の『ちがうねん(This Is Not My Hat)』でコールデコット賞、ケイト・グリーナウェイ賞をダブル受賞(絵本史上初)しました。それぞれの題名からも分かるように、翻訳はどちらも長谷川義史によるもの。イラストを描いた絵本としては、『サムとデイブ、あなをほる(Sam and Dave Dig a Hole)』、『くらやみ こわいよ(The Dark)』、『アナベルとふしぎなけいと(Extra Yarn)』、『木に持ちあげられた家 (House Held Up By Trees)』などがあります。また、U2のMV『 I'll Go Crazy If I Don't Go Crazy Tonight』でアートディレクターを担当しました(その動画は以下)。


U2 - I'll Go Crazy If I Don't Go Crazy Tonight (Animated)