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『白い池 黒い池』リタ・ジャハーン=フォルーズ作(再話)/ヴァリ・ミンツィ画

海外の絵本 2015年の絵本 イラン コミュニケーション

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あらすじ

毛糸玉を返してもらうため、見知らぬ家を訪ねた娘を待っていたのは、気難しそうなおばあさんでした。
おばあさんは毛糸玉を返す条件を告げます。それは……。


インプレッション

「この手紙は捨てて」「オッケー」→「あの手紙をどうして捨てたの!」「ええっ!?」

イランから届いた絵本です。イランという国は、しばしば英米系のメディアから「女性の人権が守られていない国」として、やり玉にあげられますが、この絵本(再話)を読む限り、にわかには信じがたい話です。というのも、女性心理をきちんと正面から描いた、本当に稀有な絵本で、しかも昔から語り継がれてきたことを思えば、決して女性をないがしろにしている国とは思えないからです(それにイランは、かつてのペルシャなので、そうそう文化レベルが低いわけがありません)。

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さて物語は、おばあさんのオーダーが握っています。二人の娘の運命は、おばあさんから示される選択肢によって、ハッピーエンドとバッドエンドに分岐します。何も考えずに読むと、特に引っかかりのないストーリーに感じられ、よくある教訓めいた絵本と思うかもしれません。「おばあさんの言いつけを守ればハッピーエンドで、守らなければバッドでしょ? そんな話、ありふれてる」と。

いいえ、実際はそれほど単純ではありません。バッドエンドの娘が、少しも言いつけを守らなかった、というワケではないからです。ハッピーエンドを迎えた娘も、全面的には言いつけを守っていません(この絵本をすでに読んでいる場合、もう一度ページをめくってみてください。その通りであることに気づくはずです)。一瞬、おばあさんを経たロジックが分からず、目を白黒させたくなります。

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しかし、筋は通っています。詳細を記すと、ネタバレになってしまうので伏せますが、ヒントは絵本のタイトルが握っています。とにかく読めば読むほど、対称的で論理的にも整合性のある、よく練られた話であることが分かります(それでこそ昔話というものです)。

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また、この絵本で注目したいのは、登場人物がすべて女性という箇所です。検証してみると、たしかに登場人物は、すべて女性でなければ、この物語から説得力は生まれません。男性が出てくると、ストーリーが迷走します。加えて面白いのが、登場人物が女性だけであるのに、おそらくは女性に向けて描かれた絵本ではなく、男性に対して語られているだろう、ということです。というのも、おばあさんから示される不可解なロジックは、男性には紐解きがたく、反対に、女性であれば容易に理解できるタイプのものだからです。

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推測するに、もともと昔話として、イランのお母さんが『白い池 黒い池』を子どもたちに聞かせたとして、「一体どういうこと?」と問いを発するのは、男の子たちだったでしょう(一方で女の子たちは、「そんなことも分からないの?」といった表情を浮かべます)。そこでお母さんは、「それはこういうことで……」と説明を加え、男の子たちが分かったような、分からないような顔になる、といった案配です。文化レベルが高い、としか言いようがありません。

冒頭にも記しましたが、実に珍しいタイプの絵本なので、男性諸君──とりわけ妻やガールフレンドを頻繁に怒らせてしまうタイプの──は、だまされたと思って、一度ぜひ手にしてみてください。いろいろ発見するところがあるはずです。

作品情報

『白い池 黒い池』(SHIRAZ'S WISE HEART)
作者:リタ・ジャハーン=フォルーズ(Rita Jahanforuz)
挿画:ヴァリ・ミンツィ(Vali Mintzi)
翻訳:もたいなつう
出版:光村教育図書
初版:2015年(日本語版)

白い池 黒い池―イランのおはなし

白い池 黒い池―イランのおはなし

  • 作者: リタジャハーン=フォルーズ,ヴァリミンツィ,Vali Mintzi,Rita Jahanforuz,もたいなつう
  • 出版社/メーカー: 光村教育図書
  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: 大型本
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リタ・ジャハーン=フォルーズについて

リタ・ジャハーン=フォルーズ(Rita Jahanforuz。1962~)は、イラン出身のイスラエル在住の歌手、女優です。イスラエルとイラン、両方の国で人気があります(この二国間の緊張関係を思えば、彼女が「文化大使」と呼ばれていることも頷けます)。これまでに発表したアルバムのうち、5枚がプラチナディスク、7枚がゴールドディスクを獲得するなど、国民的な支持を得ています。2013年、オバマ大統領がイスラエルを訪問した際、レセプションパーティーで歌を披露したのも彼女でした。この絵本に携わった経緯は不明ですが、2011年にペルシア語でアルバムをリリースした延長線上での活動かもしれません。