『すべてのひとに石がひつよう』バード・ベイラー作/ピーター・パーナル画

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あらすじ

石をひとつ見つけられるように、わたしの考えた10のルールを教える。
それではこれから、そのルールを説明する。


インプレッション

正しくオルタナティブな絵本

「意志と石の変換ミスでは?」と疑ってしまいそうなタイトルですが、この題名であってます。『すべてのひとに石がひつよう』。タイトルから内容を予想しにくいものですが、そのままストレートに石の話です。ただし、アカデミックに鉱物としての石を扱ったものではありません。ジュエリーとしての石についての絵本でもありません。オカルトめいたスピリチュアルなものでもありません。自分だけの石を見つけるための、10のルールが記された絵本です。

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「石が必要だって? 何のことやら分からない……」という人は、どうかご安心ください。大丈夫です。本書を熟読しても、やはり何のことだか分かりません! 分かりそうでいて、最終的には分かりません。

いろいろ解釈の仕方はあるでしょうが──むしろ百人百様の解釈しか存在しないでしょう──、ここでそのひとつを披露するつもりはありません。入り口を狭めたくないからです(残念ながら出版社の紹介文も、作品のポテンシャルを削いでいるように思えます)。言えることがあるとしたら、極めて独創的な絵本で、奇妙な感覚を味わえる一冊だ、ということです。ハマる人は、ドハマする可能性があります。

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硬質な語り口は、クールでありつつ真剣そのもので、言葉に迷いがありません。あまりの迷いのなさに、「自分もひょっとして、石を見つけなければならないのでは?」とか、「この話の重要性を理解できない自分は、もしやオカシイのでは?」などと、読んでいて不安になってきます。どこか狂気じみたナラティブの迫真性に、だんだんと感覚が揺らいでくるわけです。

ただ狂気が感染しているようにも見えますが、かろうじて作者が正常な意識を保っていることは分かるので、その辺りの心配は不要です(それにベイラーとパーナルのコンビは、コールデコット賞の常連とも言えるベテラン勢です)。

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この絵本自体が、「石」のようなものとも言えます。読んだ後にアレコレ考える感覚は、てのひらで石を転がしている時の感触に、近いものがあります。誰にでもおすすめできる絵本ではないので、もしも書店や図書館で見かけることがあったなら、川辺で石ころを拾うような感じで、そっと開いてみてください。波長が合えば一瞬でトリコになるでしょうし、合わなければ合わなかったで、「人間って厄介な生き物だな。こんなにまで石に執着する場合があるなんて」と、知見をあらたにできるでしょう。

作品情報

『すべてのひとに石がひつよう』(EVERYBODY NEEDS A ROCK)
作者:バード・ベイラー(Byrd Taylor)
挿画:ピーター・パーナル(Prter Panall)
翻訳:北山耕平
出版:河出書房新社
初版:1994年(日本語版)

すべてのひとに石がひつよう

すべてのひとに石がひつよう

  • 作者: バード・ベイラー,ピーター・パーナル,北山 耕平
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2010/08/12
  • メディア: ハードカバー
  • 購入: 1人 クリック: 112回
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ピーター・パーナルについて

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ピーター・パーナル(Prter Panall。1936~)は、ニューヨーク州シラキュース出身のイラストレーター、絵本作家です。獣医師を目指してコーネル大学に入りましたが、肺炎にかかって退学。その後、彼の絵を見た父親にすすめられ、プラット・インスティテュートで学びます。これまでに80冊以上の絵本を手掛けてきました。バード・ベイラーと組んだものとしては、本書の他に『わたしのおいわいのとき(原題:I'm in Charge of Celebrations)』、『The Desert Is Theirs』、『The Way to Start a Day』、『Hawk, I'm Your Brother』(未邦訳のこの三冊は、すべてコールデコット賞オナー)などがあります。