『会えないパパに聞きたいこと』新川てるえ作/山本久美子画

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あらすじ

離婚した父親と会うことなく、ずっと母親と二人で暮らしてきた娘。しかし彼女には、どうしても父に聞いておきたいことがありました。それは……。


インプレッション

強く、弱く、危ういバランス

両親が離婚し、母と二人で暮らす娘の視点から描かれた絵本です。設定やタイトルから、お涙ちょうだい的な展開も予想され、いくらか斜に構えてページをめくりましたが、結果的には「……そう来たか!」と鮮烈なパンチを不意に浴びせられ、一発でノックアウトされました。

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この手の話では、娘が間接的に恨み言を伝えたり、あるいは反対に感謝の言葉を告げたり、はたまた何か現実的な問いを、父親に発したりするものですが、そのいずれでもありませんでした。はじめの数ページは、「なるほど、ふむふむ」といった具合に、比較的たやすく心情をトレースすることができ、しかもそこには、父親への問いもいくつか含まれているので、このまま特に波乱もなく物語が終わるのだろう、と油断させられます。

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が、しかし、語り手の娘が、恋に落ちてからの急転直下。ワンパンでやられました。彼女の美しく昇華された苦悩が、ひとことに圧縮されていて、瞬時に心をえぐられます。やさしくて哀しくて深い、そのたったひとつの問いは、この娘がすばらしく成長したことの証でありつつ、手ひどい傷をずっと心に抱えてきたことを、あらわにするからです。

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物語としてのきらめきを放つシーンですが、ふつうに重いです。子どもがいながら、リアルに離婚している人には、おすすめしにくい。まちがいなく滂沱の涙が頬を伝うでしょう。離婚した家庭にいる子どもにも、やはり同じようにキツいはずです(そう、ブタなのか、ヒツジなのか、ウサギなのか、何だか判然としない生命体が出てくる絵本なのに、ガチもガチな作りなのです)。ただし絵本としては名作なので、この辺りがフィクションの優しくも残酷なところです。

作品情報

『会えないパパに聞きたいこと』
作者:新川てるえ
挿画:山本久美子
出版:太郎次郎社エディタス
初版:2009年

会えないパパに聞きたいこと

会えないパパに聞きたいこと