『ローラとつくるあなたのせかい』ローラ・カーリン

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あらすじ

刷り込みや思い込みを壊して、身の回りのイメージを作り直すのって楽しい!
もっと自由に発想して、毎日を楽しく送りたい人に。


インプレッション

ローラのオーラは、少々ヤバい

「上から目線の教育的な目的で書かれた絵本」が世の中にはたくさん存在していて、この絵本も一見したところ、そういった気配を漂わせています。そして実際、最初の数ページは、あやしい雰囲気を漂わせています。つまり、「スキあらば教育してやる! 私の考える正しい方向に!」といった、微妙な空気です。狭い価値観に閉じ込めたがるタイプの。その手の目的で、この絵本を使おうとする大人もいるでしょう。たとえば、「常識をわきまえた範囲で自分の世界を持つ、クリエイティブな人間に仕立てたい」といった風の。

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ただし、ページをめくっていると、作者がフツーではないことが、だんだんと明らかになってきます。いえ、おそらく作者は自分のことをフツーだと思っています。そして、筆の運びもそこまでクレイジーではない(ように見える)ので、多くの人がだまされることでしょう。

違います。一番タチが悪い種類の変人です。パッ見、善良そうな人ほど、実はとんでもない闇を抱えているものです。お洒落なコラージュや、アーティスティックなオブジェにだまされないでください。この作者は変人で、しかも、かなりどうしようもないです(誤解のないよう記しておきますが、これは褒め言葉です)。取り入り方がトロイの木馬のようなので、知能犯的な変人である、とも言えます。

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ちょっと普通ではない感性が、あちこちで顔をのぞかせています。制御できるタイプのものではありません。破壊的なクリエイティブです。もちろん、クリエイティブな感性は、そうそう容易にコントロールできるような、甘っちょろいものではありません。だから「正しくクリエイティブな教えを実践できている」と言えるのですが、世間的な意味での教育は、そんな手に負えないものを求めていません。せいぜいワクチン型のクリエイティブです。よって、完全にミスマッチを起こしているのですが、幸か不幸か、この絵本は「教育上いい絵本」としての評価を得ているようです。

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当ブログでは、別の意味でいい絵本だと評価します。作者ローラ・カーリンは、かなりギリギリを攻めています(無自覚に)。どちらかというとアウトかもしれません。カンのするどい子どもなら、「あッ、うかつに近づいたらダメな人だ」と思うでしょう。でも大半の子どもは、「ホントに自由にやっちゃっていいんだな」というメッセージを、まったく素直に受け取るはず。すばらしく教育的です。

そう、子どもたちはホント自由にやっていいのです(大人も!)。遠慮は不要です。親や先生の目を気にして縮こまる必要なんか全然なく、世俗的な「あれをするな。これをやれ」といった指示に従う必要もないのです。その手本をローラが示してくれますし、そそのかしてさえいます。いい絵本としか言いようがありません。

日本語訳は絵本界の重鎮、広松由希子によるものですが、この人もなかなかのワルです(褒めてます)。絶対ノリノリで翻訳してます。表面上かわいらしい日本語に訳しつつ、よくよく読み込めばポイズンなもので、この絵本が持つエクストリームなエッセンスを見事に引き出しています。最高です。

作品情報

『ローラとつくるあなたのせかい』(A WORLD OF YOUR OWN)
作者:ローラ・カーリン(Laura Carlin)
翻訳:ひろまつゆきこ
出版:BL出版
初版:2016年(日本語版)

ローラとつくるあなたのせかい

ローラとつくるあなたのせかい

A World of Your Own

A World of Your Own

ローラ・カーリンについて

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ローラ・カーリン(Laura Carlin)は、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art)出身のイラストレーター、絵本作家です。陶芸作品も手掛けています。Heart Agencyでは、イラスト部門の代表をつとめています。本書および『The Iron Man』(未邦訳)で、2015年にはブラティスラヴァ世界絵本原画展グランプリを受賞しました。日本語で読める彼女の絵本としては、『やくそく(原題: The Promise)』ニコラ・デイビス文、『カイト(原題:The Kites Are Flying!)』マイケル・モーパーゴ文があります。ロンドン在住。