読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『ここってインドかな?』アヌシュカ・ラビシャンカール作/アニータ・ロイトヴィラー画

f:id:ookami_to_taiyou:20170126013839j:plain

あらすじ

インド旅行の思い出を縫い込んだキルトを、アンナおばさんから手渡されます。その晩、もらったキルトの下で眠りにつくと、青いネズミの姿になって、おかしな世界に迷い込み……。


インプレッション

インドに対して思い描きがちなステレロタイプを逆手にとった、インドのような国を舞台にした、夢の中での話です。なにせインドという土地柄ですし、設定も夢なので、いくらか会話がブッ飛んでいようとも、だいたいオッケーのはずですが──。それを差し引いたとしても、会話のかみ合わなさには、はじめ面食らってしまいます。

ここがどこなのか、国名をたずねているのに、「こっちが東でしょ、だからこっちは北、そうすると、はんたいがわが南西じゃない」と返されたり、別の人からは「もしあなたが逆立ちしているんなら、あなたは髪の毛の上に立ってるってこと」と教えられたり、まるで会話のキャッチボールが成立しません。どれもこれも魔球です。キャッチ自体ができません。

f:id:ookami_to_taiyou:20170126013910j:plain

しかし人間の適応力とは恐ろしいもので、このような魔球を受けつづけていると、だんだんと球筋が読めてくるのです。そしてついには、「バシーン!」とばかりに、魔球をキャッチすることに成功します(ただし、やはり会話自体は成立しておらず、「今どこにいるのか?」は、分からないままです。でも、そんなことは途中から気にならなくなります。これぞインド的なマジックと言えるかもしれません)。

けれども、なにぶん魔球なので、主人公にはキャッチできても、読み手にとっては難しいものがあります。禅問答じみた会話から、「わかった!」となるには、ちょっとした悟りを開くような意気込みが必要です。メッセージ自体はシンプル、かつ普遍的なものなので、そこまで構えなくても大丈夫でしょうが、ストーリー前半があまりにもイカレているので、あるいはむしろ、そのメッセージのまともさに驚いてしまうかもしれません。このギャップがまた、『ここってインドかな?』の醍醐味でもあるでしょう。

f:id:ookami_to_taiyou:20170126013928j:plain

ちなみに最大の醍醐味は、その後のフライトにあるのですが、そこは読んでのお楽しみです。何ともポジティブで、ハッピーで、クレイジーな、そんなエンディングになっています。また読み終えた後、最初のフライト場面を開いてみるのもオススメします。まるきり脈絡がなく、ほとんどデタラメのように思えた物語が、不思議にスッとつながります。そう、ちょうどパッチワークが描くモザイク画のように。

作品情報

『ここってインドかな?』(Excuse me, is this India?)
作者:アヌシュカ・ラビシャンカール(Anushka Ravishankar)
挿画:アニータ・ロイトヴィラー(Anita Leutwiler)
翻訳:角田光代
出版:アートン
初版:2005年(日本語版)

ここってインドかな? (アジア・アフリカ絵本シリーズ―インド)

ここってインドかな? (アジア・アフリカ絵本シリーズ―インド)

  • 作者: アヌシュカラビシャンカール,アニータロイトヴィラー,Anushka Ravishankar,Anita Leutwiler,角田光代
  • 出版社/メーカー: アートン
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 大型本
  • この商品を含むブログ (3件) を見る

Excuse Me, is This India?

Excuse Me, is This India?


アヌシュカ・ラビシャンカールについて

アヌシュカ・ラビシャンカール(Anushka Ravishankar)は、実際にインド出身の絵本作家であり、編集者であり、ダックビル・ブックス(Duckbill Books)の設立者です。インドの「ドクター・スース」とも呼ばれています。ちなみに出身地はナーシクで、ここはワーラーナシーと並ぶ、ヒンドゥー教の聖地でもあって、なかなか筋金入りのインド人と言えそうです。ファーガソン・カレッジで数学を学び、出産して作家業に専念するまでは、IT企業で働いてもいたので、そういう部分でも非常にインド人ぽいです(数学とITに強いという意味で)。

f:id:ookami_to_taiyou:20170126014000j:plain

英語版では多数の作品がありますが、日本語で読めるものとしては、『トラさん、トラさん、木のうえに!(原題:Tiger on a Tree)』、『ぞうはわすれないよ(原題:Elephants Never Forget!)』、『猫が好き(原題:I Like Cats)』、『1・2・3 インドのかずのえほん(原題:One, Two, Tree!)』、そして本作といった具合です。

なお、1996年にチェンナイに引っ越した際、タラブックス(Tara Books)で編集者として働いていました。タラブックスの設立が1994年なので、初期メンバーの一人とも言えるでしょう。今やタラブックスは、シルクスクリーンの美しい絵本をつくる出版社として世界的に有名ですが、彼女の近著である『猫が好き』は、そのタラブックスで作られたものです(もちろんシルクスクリーンの!)。