『ことりのおそうしき』マーガレット・ワイズ・ブラウン作/クリスチャン・ロビンソン画

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あらすじ

死んだばかりの小鳥を見つけた子どもたちが、お葬式をあげることを思いつきます。子どもたちは小鳥のために、お墓をつくって、花を添え、歌をうたいます。そして……。


インプレッション

PLAY for PRAY

この絵本の中では、子どもたちだけで小鳥のお葬式をあげます。おごそかな雰囲気がないわけでもなく、まったく形式がないわけでもなく、ましてやふざけているわけでもありませんが、そこにはどこか「ごっこ」の気配が感じられます(「お葬式の真似っこ」とでも表現したらよいのでしょうか)。その奇妙なトーンは、明るくポップな背景と、ほとんど感情をあらわにしない子どもたちの描写、淡々と進むストーリーと相まって、何とも言えない違和感をもたらします。

実際、何も知らず絵だけを見せられ、「子どもがピクニックを楽しんでいる本」と紹介されたら、多くの人は信じてしまうでしょう。それほどに、一般にイメージされるお葬式と、この絵本で描かれているお葬式の様子には、大きなギャップがあります。

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しかし、その違和感には、少なからず身に覚えのあるものです。およそ現実感のない、白昼夢のような出来事として、目の前でお葬式が行われ、自身もそこに参列していることを十分に分かっていながら、そして頭は極めて冷静でありながら、ただし圧倒的にリアリティがない。誰か(もしくは何ものか)の死が、悲しくないわけでもなく、喪失感がないわけでもなく、理解できないわけでもないのに、どうしてだか、いつものように落ち着いていて、取り乱すこともなければ、たった一粒の涙も出てこない──。

そんな体験を、誰しも一度は葬儀で経験しているはずです(ひょっとすると、これまで経験したことがないケースもあるでしょうが、長い人生、いつかそのような体験を必ずやするでしょう)。

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おそらく心の奥深くでは、死を受け入れられていないことで、そのように不思議な感覚に襲われてしまうのでしょう。つまり、ハート(心)とマインド(頭)の足並みが揃っていないことで、えも言われぬ違和感が、葬儀に参加していながら生じている、と考えられます。『ことりのおそうしき』では、あえて違和感のある描写を際立たせることで、まだ死を受け入れられてない、あの宙ぶらりんの心境を、絵本の形でなぞらえているかのようです。

いいえ、それだけでなく、端的に解決策を示してさえみせます。シャープな輪郭と、鮮やかな色彩でもって、実にシンプルな物語を描き出すことによって。まどろっこしい説明は一切ありません。よくよく読み込めば、この絵本から一種の凄みを感じることでしょう。まごうことなき正しい喪を、本当にそっけなく見せている、その並外れてクールなスタイルに。最後のページをめくる時、この上なく研ぎ澄まされた一文に、きっと心を撃ち抜かれます。

作品情報

『ことりのおそうしき』(The Dead Bird)
作者:マーガレット・ワイズ・ブラウン(Margaret Wise Brown)
挿画:クリスチャン・ロビンソン(Christian Robinson)
翻訳:なかがわちひろ
出版:あすなろ書房
初版:2016年(日本語版)

ことりのおそうしき

ことりのおそうしき

  • 作者: マーガレット・ワイズ・ブラウン,クリスチャン・ロビンソン,なかがわちひろ
  • 出版社/メーカー: あすなろ書房
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: ハードカバー
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The Dead Bird

The Dead Bird

クリスチャン・ロビンソンについて

気鋭のイラストレーターとして知られるクリスチャン・ロビンソン(Christian Robinson)。それが名ばかりのものでないことは、マーガレット・ワイズ・ブラウンの原作に臆することなく(むしろ奮い立って)、こうして意欲的なイラストを投じてきたことからも明らかでしょう。『ことりのおそうしき(原題:The Dead Bird)』に、あのイラストを添えるには、相当な試行錯誤と、決断の末にしかできないはずです。

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また実際、ここ数年における彼の活動には目を見張るものがあり、デビューした2013年に出版された『おじさんとカエルくん(原題:Rain!)』でエズラ・ジャック・キーツ新人賞を獲得したことを皮切りに、『Leo』はニューヨークタイムズ紙が選ぶ2015年の絵本に選ばれ、さらに2016年『おばあちゃんとバスにのって(原題:Last Stop on Market Street)』ではコールデコット・オナーを手にしています。まさに快進撃ですし、絵に描いたようなサクセス・ストーリーです。しかしながらクリスチャン・ロビンソンは、これまで順風満帆な人生を送ってきたわけではありません(詳しくはまた別のエントリで!)。